はじめてのおつかい3

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   広場自体はそんなに大きなものではなかったが、
   小さな子供にとっては、充分大きな森に迷い込んだような気持ちにさせる。
   不意に、ドモンとレインが昔、ギアナ高地という
   自然に溢れた所に行ったことがあるという話をしていた事を思い出す。
   とても新鮮で穏やかな気持ちになって立ち止まったアレンは、
   二人も自分と同じ気持ちになったのだろうかと、
   しばらく呆けたように上を見上げていた。

   「トウヤにも見せてあげたいな…」

   自分の言葉に、アレンはしなければいけない事を思い出して池に向かって走り出した。
   水は少なくゴツゴツした岩が多数ある池は、何も生き物がいないように見える。
   池を横目にしながら駆け抜けようとしたアレンは、
   急に目の前に現れた塊に驚いたように立ち止まった。

   丸く硬い胴に太い四本足。長く伸びた首の先に付いた小さな頭。

   「デ…デビルガンダム…!」

   ドモンの父と兄が、地球再生の目的の為に協力して作ったが、
   地球に落ちた際、データが狂って地球を破壊する魔神と化してしまったという
   デビルガンダム。
   実物は見た事はないが、ドモン達に聞いた説明そのものな生物が今目の前にいるのだ。

   「あ…あぁ…」

   堪らない恐怖心に、その場に座り込んでしまったアレンは、
   逃げるように後ろに後ずさった。
   そんなアレンを追い掛けるように少しずつ近づいて来るデビルガンダムに、
   逃げ出したいのに恐くて立ち上がる事も出来ない。
   ただ怯えたように身体が固まるだけだ。

   「…ぱ…まま…」

   助けてという言葉すら声にならない。

   「…ウヤ」

   ドモンやレイン、そして傷ついた瞳のトウヤの顔が脳裏に浮かんで、
   目を強く塞いだアレンは。


   「トウヤーーーー!」


   「!アレン…っ!?」

   その声に答える様に声が聞こえて、驚いた様に目を見開いた。

   「アレン!」

   デビルガンダムを挟んだ向こうにある入口から、
   目を赤くしたトウヤが飛び込んで来たのだ。

   「トウヤ…デビルガンダムが…っ!」

   安心したように両目から涙を溢れさせたアレンは、
   トウヤも初めて見るデビルガンダムに気付いて
   怯えた様に固まるのを見て、慌てて叫んだ。

   「トウヤ、来ちゃだめ!…っ!」
   「アレン!」

   同時にどんどん近づいてくるデビルガンダムに恐怖心を煽られる。

   「…っ!…ぅえ…」

   我慢できなくなったように本格的に泣き出してしまったアレンを見たトウヤは。

   「ア、アレンに近づくな!」

   涙を両目から溢れさせながらデビルガンダムの横を通り抜けて、
   アレンの前に両手を広げて立ち塞がった。

   「トウヤ…」

   震える小さな身体を精一杯力ませている背中が、
   いつも自分を頼ってくる情けないトウヤだとは思えない程逞しく見えた。

   「ぼくが…アレンを守るんだ!」

   いつも守っているつもりでいた。
   トウヤはいつまでも自分より弱い存在だと思っていたけれど。

   『トウヤは強い子よ…多分、アレンが思っているよりずっと』

   母が言っていた言葉が、初めてわかったような気がした。
   しばらく続く膠着状態。
   緊張が限界を達しそうになっていた二人を助けたのは。

   「アレン!トウヤ!」
   「何してるんだ!」

   公園に駆け込んで来た、心配そうな父と母、
   そしてシャッフル同盟の面々だった。

   ***********

   ここはカッシュ家。
   帰りが遅いと心配した両親とその友人達に助けられた二人は。

   「あはははは!さすがジャパニーズの子供だぜ」

   家中に響き渡る笑いの原因となっていた。

   「チボデー、笑い過ぎですよ」

   フォローを入れるジョルジュの声すら笑っているのを見逃さなかったアレンは、
   顔を真っ赤にしてドモンに抱き着いた。

   「だって!名前だけは知ってたけど、あれがカメだなんて知らなかったんだもん!」

   そう、二人がデビルガンダムだと思っていたのは、なんて事はない。
   ただの亀だったのだ。

   「あの亀は大きかったし、私たちの話を聞いていたから勘違いしたのよね」

   レインの優しい言葉に何度も頷いて抱き着くトウヤは、
   もういつものトウヤに戻っていて。
   さっきの姿は見間違いなんじゃないかと思ってしまう。

   「しかし、女性を身を呈して守ったトウヤは、まさに紳士ですね」

   優しく頭を撫でられて嬉しそうにしているトウヤが、
   誰を真似して敬語を使っているのかよくわかる図だ。

   「そうだぜ!やっぱり兄貴とお姉ちゃんの子供だよな!」
   「勇気がある」
   「いつもはぼくが守られてますけど」
   「いざという時に守れる勇気があるか、だ。…よくやったな、トウヤ」

   自分だって初めて買い物して来たのに、と頬を膨らませたアレンは。

   「アレンも、ちゃんと買い物してきてくれてありがとう」

   レインに優しく微笑まれて気分を浮上させた。

   「えへへ」

   それでも、ドモン達の言葉に嬉しそうに笑うトウヤがやっぱり憎らしくて。

   「…男の子には泣かされてばかりだけどね」

   舌を出して言ってやったら、またトウヤが泣きそうな顔をするから。
   あの時本当は、両手を広げて立ちはだかった背中が、父の様に恰好よくて。
   一人で買い物を出来た事より嬉しくてドキドキした事は。

   「これからもいっぱいあたしを守ってよね!」

   自分だけの秘密にする事にして、アレンは楽しそうに笑った。

   END

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   『おつかい』じゃなくてもよかったんじゃ、、、
   というツッコミはなしです(笑)
   ドモレイ一家話というか完全オリジナルな子供二人の話になってしまいました(汗)

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