ずっと君のことが

   *********


   ギアナ高地に修業に来て、早くも一週間が過ぎようとしてた。
   シュバルツに渡された錆びた刀は一向に使いこなせる兆しを見せず、
   ドモンはただ苛立ったように修業を続ける事しか出来なかった。
   シャイニングガンダムの整備をしているレインを残し崖に上ったドモンは、
   滝に何度も飛び込んでは出て、飛び込んでは出てを繰り返していた。

   「何故だ!何故俺には使いこなせない!」

   刀を水面に叩き付けたドモンは。

   「ドモン!もう今日はそのくらいにしない?
    あまり焦ってやりすぎてはいけないわ」

   身体の方が大事よ、と心配そうに川岸から声をかけるレインの声に、
   初めて日がかなり沈みかけていた事に気付いた。

   「身体を壊したらDGどころじゃなくな…」
   「うるさい!そんな事はわかっている!」

   レインの心配そうな声すら今は欝陶しくて。

   「ドモン…」

   潤んだ瞳で見つめてくる瞳を避けるように反らすと、また崖を上り始めた。
   八つ当たりだという事はわかっている。
   だが、どこまでやればいいのか先が見えない不安に、
   苛立ちと焦躁が隠せなかった。

   「自分の体調管理くらい出来る…!」

   怒りをぶつけるように乱暴に上っていたドモンは。

   「あ、あれ?」
   「ド、ドモン!?」

   調度中間地点辺りまでたどり着いた時、
   急に目の前がクルクル回ったと思ったら全身力が入らなくなって。

   「きゃあああああ!!」

   地面に向かって真っ逆さまに落ちて行ってしまった。
   着地しなくちゃとか考えるよりも、落ちたら痛いだろうな、
   という何とも呑気な事しか思い浮かばなくて。
   あと数メートルで落ちるというところで急に柔らかな浮遊感に抱き締められた。

   「修業が足りんぞ、ドモン」

   懐かしい声と香りに、目を開けたいのに瞼が重くて開けれなかった。

   「レインの言う通りだ。必死になるのもいいが
    己を知らぬ者にその刀は使えんぞ」

   遠い昔の記憶のように、頭の中でごめんなさいと素直に謝ったところで。

   「兄…さん…」

   ドモンの意識は途切れてしまった。

   *********

   「ヘイ、ジャパニーズ!風邪ひいたんだって!」

   叫ぶように簡易テントに駆け込んで来たチボデーに頭痛がするのは。

   「ジャパニーズでも身体を壊すとはな」

   大丈夫か、と聞いてくる声がものすごく楽しそうに聞こえたからかもしれない。
   過去に修業していた場所とはいえ、さすがに久しぶりの環境にやられたのか、
   ドモンは見事に風邪をひいていた。

   シュバルツに助けられた(レイン談)というだけでも恥なのに、
   その上風邪までひいてしまっていてはレインの
   言った通りになってしまったようで堪らなく悔しかった。
   しかもそれだけではない。

   「レイン、こんな言う事を聞かない奴じゃ大変だろう」

   ドモンを見舞に来たと言っては、
   苦笑するレインの肩をちゃっかり抱いているチボデーや。

   「女性に迷惑をかけるなんて紳士とは言えませんね」
 
   気遣うように自分の髪を撫で上げながらレインに薔薇を差し出すジョルジュ。

   「お姉ちゃんの代わりにオイラが飯作ってやるよ!」

   無邪気にわざとレインに抱き着くサイ・サイシーに。

   「大丈夫なのか」

   ちゃっかりレインの後ろに控えているアルゴ。

   『ドモン、大丈夫?』
   「お前には大会まで潰れてもらうわけにはいかんのだ」

   それに加えクルーという名の姦(かしま)し娘達が押しかけたお陰で、
   ドモンの不機嫌は最高潮に達しようとしていた。
   妙に『レインに』『レインの』という単語が気になってしまうのは、
   熱のせいだなんて自分に言い訳をして。

   「お前ら…」

   怒ろうと搾り出した声が妙に掠れている事に気付いて黙り込んだ。
   予想以上に体調は思わしくないらしい。

   「ドモン、無理しちゃ駄目よ」

   それに気付いたように、ドモンの頭に乗せていた濡れタオルを
   もう一度濡らしてそっと置いてくれる。
   気遣うレインになんだか得意な気持ちになるのは。

   「ゆっくり休んでね」

   優しく髪を撫で付けてくれる冷たい指と、
   自分にだけ気遣ってくれるのが自慢気に思えたからかもしれない。
   普段なら恥ずかしいのと悔しいので怒鳴り散らしてしまうのに、
   熱のせいかそれすら出来ずに大人しく目を閉じた。

   「おぉ!猛獣使い!」
   「さすがレインさん…」

   驚いたように呟く声なんてこの際無視だ。
   柔らかい指に、騒ぐ友人達の声すらだんだん遠くなっていって、
   眠りに入りそうになった瞬間。

   「様子はどうだ」
   「シュバルツ!」

   今一番会いたくない人物の声が聞こえて、ドモンは目を見開いた。

   「寝ていれば大丈夫だと思います。本当にありがとうございました」

   さっき自分を助けた事も、レインが嬉しそうに御礼を言うのも気にいらない。

   「ドモン、自分の身体一つ守れんようでは仲間なんぞ一生守れんぞ」
   「そうだぜ、ジャパニーズ」

   レインの肩を抱いて説教するシュバルツも、
   途端に騒ぎ出すチボデー達も、
   何よりも顔を赤らめているレインに腹が立った。

   「言われなくてもわかっている!」

   こんな事で怒るなんて子供みたいだという事はわかっている。
   でも頭が真っ白になっていくような感覚に、自分の感情を止められなくなった。

   「お前らも人の所に来て散々騒ぎ立てて!迷惑だ!」

   傷ついた表情をする仲間達にすら
   目眩のような怒りの前には掻き消されてしまう。

   「レインもレインだ!医者ならわかるだろ!
    そんなお前は医者として失格だ!」
   「ドモン…ッ!」

   絶望したように俯くレインの瞳を見ていると、何故か涙まで出てくる。
   今ので相当熱が上がってしまって、
   自分が何を言っているのかすらわかっていないのかもしれない。

   「ドモン!貴様…!!」
   「いいの!…私が悪いんだから…」

   窘(たしな)めようとするシュバルツを手で制したレインは、
   大人しく離れていくチボデー達に申し訳なさそうに頭を下げると、
   自分も出ようと立ち上がった。

   「ごめんなさいね、ドモン。私は医者として失格だわ…
    シャイニングガンダムの中にいるか………っ!ドモン!?」

   そっと離れようとしたレインは、赤い顔で見つめてくるドモンに腕を掴まれて、
   困ったように立ち止まった。

   「ドモン…私も邪魔はしたく…」
   「誰が…はぁ、レインも行けって言ったんだ…!はぁ、はぁ」
   「ドモン!いけない、熱がっ!」

   荒くなる息使いに、相当熱が上がっていると知ったレインは、
   急いで薬を取りに行こうとしたけれど。

   「お前は、側にいろ!」

   熱に浮かされた声で言われて、困ったようにドモンを見つめた。

   「でも…っ!」
   「あんな奴らにベタベタ触らせるな!はぁ、はぁ、
    …お前は俺のクルーだろ!…はぁ、はぁ、俺は…」

   信じられない言葉にレインが顔を赤らめた瞬間。

   「俺は…ずっと…お前の事が…っ!」

   それだけ叫んで、意識を失ってしまった。

   *********

   「見舞に行ってやった俺らを散々邪険に扱っといてよ〜」
   「あれはヤキモチだったんですね…」
   「しかもオイラ達の目の前でお姉ちゃんに大告白するしさ!」
   「全くだ…」
   「修業が足りんな」

   次の日、すっかり体調が良くなったドモンは。

   「…何故だ」

   全く覚えがない事で全員に怒られる事に理不尽さを感じていた。

   「俺は…何を言ったんだ…」

   サイ・サイシーが作ってくれた中華粥を渡してくれるレインの顔の赤さも気になる。

   「…あは、あははは」

   曖昧に笑うレインに、ますます謎は深まるばかりだった。

   はっきり言って、ドモンはシュバルツが来た辺りから記憶が曖昧で、
   自分が何を言ったのかすら覚えてなかったのだ。

   『ドモン!やるじゃない!』

   声を揃えてはしゃぐ姦し娘達に目眩を覚えたドモンが。

   「何を言ったかわからない…」

   久々に引いた風邪に恐怖心を覚えてレインを見つめたら。

   「…私と同じ気持ちを言ったのよ」

   ひどく嬉しそうに笑い返されて。

   「…なら、まあ、良しとするか」

   その笑顔がとても綺麗だったから、何もかも全ていいように思えて。

   幸せそうに苦笑した。

   END

   *********


   もう、ドモン子供じゃん!!!(死)
   どうやら私は、可愛い(性格)男の子が女の子にベタボレなのが
   堪らなく好きみたいです(笑)


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