僕らは少年探偵団

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   久しぶりに休みとなった日曜日の昼、
   西浦5人組は久しぶりの休みを満喫しようと、街に出ていた。


   田「なあなあ、ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!!」
   栄「田島元気だな〜。オレなんか今日休みだって思ったら嬉しくて寝不足」
   水「そりゃ、自業自得だな」
   栄「何だよ水谷!休みの一日前って言ったら夜更かしすんのが当たり前だろ!?」
   水「、、、どんな当たり前なんだ」
   田「なになに!?栄口昨日夜中までオナニーして、、、むぐっ!」
   花「はい、田島ストップ!!」
   阿「町中でなんて事叫ぶんだよ、お前は」

   冷静になっている花井と阿部でさえも、本当は休みが嬉しくて仕方がない。
   それでもハメを外さないのは、一生懸命理性を働かせているからだろう。


   花「それにしても、何で三橋は来なかったんだろうな」
   栄「なんか今日用事があるって言ってたぜ?」
   田「早くゲーセン行こうよー!!!」
   水「何か知らないの?阿部」
   阿「何でオレが知ってるんだよ」
   水「いやあ、三橋と言えばお前かなって思って」
   阿「なんだよそれ」
   田「ゲーセン〜〜〜!!!」
   花「はいはい。それにしても、その様子じゃお前でも
     三橋に理由教えてもらえなかったみたいだな」

   阿「、、、だから何でオレ『でも』なんだよ!!」

   あんな奴何してるか知るもんか、なんて言う阿部自身も
   実はショックを受けているのだ。
   本当は今日二人だけでどこかに遊びに行こうかな、とか。
   色々と考えていたのに。


   三『あ、あの、明日、、、は、用事が、、、』
   阿『そんなに大切な用事なのか?』
   三『ま、前から約束、してた、から』
   阿『、、、オレと遊ぶよりも?』
   三『阿部、、、君?』
   阿『何でもねぇよ!』

   昨日そのまま喧嘩のように言葉も交わさぬまま帰ってしまった。
   何度も挫折しそうになった末にようやく告白して、
   やっと両想いになれたと思った矢先だったから不安もひとしおだ。
   そんな不安を抱えて今日来た阿部は。


   栄「あ!もしかしたらアレかもしんない、、、」
   花「アレ??」
   栄「三橋に前親戚に女の子がいるっていってたんだよ」
   水「その子とデートかも、、、って事か!?」
   田「えー!いいな〜!!オレも可愛い女の子とデートしたい!」
   阿「そ、そんなわけないだろ!?」
   花「、、、何本気で切れてんだよ」
   阿「、、、っ」

   栄口の言葉に、堪らない不安を覚えて腹が立った。
   三橋がそんな阿部を裏切るような事が出来ないのはよくわかっているのだ。
   でも、一度浮かんだ不安はなかなか拭い去る事が出来なかった。


   田「ああああああああああああ!!!!」
   花「な、何だ!?田島どうした!!」
   田「アレ!!!」
   阿「三、、、橋?」

   そんな矢先、駅前に見覚えのある姿を発見した5人は、
   慌てたように木陰に隠れてその人物を盗み見た。
   オドオドと周りを伺うような小動物的動きをする人物は、見間違えようもない。
   西浦のピッチャー三橋だった。


   栄「誰かと待ち合わせしてるみたいだね」
   水「怪しい匂いがするな〜」
   田「ワクワクするな〜!!!何か俺ら探偵みたいだ!」
   阿「ば、馬鹿!こんな事止めようぜ」
   花「夫の浮気調査って感じ、、、」
   阿「、、、ホームズの気持ちを味わうのも悪くないな」
   水「お、おい、阿部!」

   花井の言葉に異常に反応した阿部は、
   一人木を伝ってどんどん前に進んでいった。


   田「なんだ〜。やっぱ阿部も気になるんじゃん」
   栄「実は一番行動力あるよな〜、阿部って」

   そんな阿部に続いて三橋にどんどん近づいていく。
   ほんの2メートル程しか離れていない植木の影にコッソリ隠れた5人は、
   訝しげに見つめてくる一般人も気にならないらしい。
   団結力があるというか、気になる事はトコトン追求しなければ仕方ないのだろう。
   探偵で言えば余計な事件に首を突っ込んで自滅するタイプだ。


   田(ゲーセンより楽しいかも☆)
   阿(しっ!誰か来たみたいだぞ)

   叶「廉!」
   三「修ちゃん!!」

   全(廉?修ちゃん??)

   そこに現れたのは、息を切らせて走って来た叶だった。

   叶「はあ、はあ、悪い、待たせたか!?」
   三「う、ううん。大丈夫、だよ。修ちゃんこそ、大丈、、、夫?」

   まるで恋人同士の待ち合わせのような会話をする二人に、
   5人は呆気にとられたように固まっていた。


   栄(まあ、元チームメイトだしな、、、)
   花(いや、でもあの呼び方にはもっと深い何かを感じるぞ)
   田(なんだ、女の子じゃないじゃん〜)
   阿「、、、ゃん」
   水(ど、どうした。阿部)
   阿「修ちゃん、、、廉、、、ね」
   田(うわっ!阿部が般若のような形相になってる!!)
   花(お、落ち着け、阿部!)
   阿「ふはははは、なかなか笑わせてくれるじゃないか、、、」
   花(聞こえる、聞こえるって!!)
   栄(あ、阿部が怖いよぉ!!!)
   水(あ、どっか行くみたいだぜ?)
   田「よーし!西浦少年探偵団出撃だ!」
   花(ば、馬鹿!田島!!!)

   三「ん??」
   叶「どうした?」
   三「今、、、う、ううん。何でも、ない」
   叶「そっか?じゃあ、行くか!」
   三「う、うん!」

   元気に叫ぶ田島を押さえつけた4人は、気づかれなかった事にほっと息を着くと、
   尾行する為にコソコソと動き出した。


   栄「百貨店に服屋、本屋に靴屋に雑貨店、、、そして喫茶店で休憩か」
   水「まあ、一般的な買い物ツアーだな。」
   田「なんかもっと面白い事ないのかな〜」
   花「何を期待してるんだよ」
   阿「、、、」

   二人からは見えない所に5人も腰を下ろして冷たいジュースを飲む。
   何をするわけでもなく、ただ二人で店を見て回っている姿が、
   妙に阿部にとって腹立たしかった。
   自分の誘いを断ってまで他の男と遊びに行きたかったのかと思ったら、
   なんだかすごく悔しくて。
   目の前で嬉しそうにパフェを食べている三橋の姿に、
   何故隣に居るのが自分じゃないのかと思ったら涙がでそうになった。


   水「おっ!」
   田「今度はなに!?」

   叶「れーん。一生懸命食べるのもいいけど口にクリーム付いてるぞ」
   三「え?ええ??ど、どこ」
   叶「違うよ、ココ」

   花「んがっ!!!」
   栄「ヒュ〜。叶君カッコイ〜」

   三橋の唇の端に付いたクリームをそっと手で取って。

   叶「甘いや」
   三「しゅ、修ちゃん!!!」

   味見をするようにペロリとクリームを舐める姿に、
   阿部は理性が切れるのを感じた。


   阿「、、、っのヤロ!!!」
   花「うわっ!どうしたんだ!」
   水「おおお押さえろ、押さえろ!!」
   阿「ブッ殺してやる!」
   田「阿部が切れた〜〜!!!」
   栄「阿部!バレる、バレるって!!!」

   探偵に必要な三大要素。
   気配を消す、さりげなく、何があっても興奮しない、
   というお約束も男の理性の前には消え去ってしまうらしい。


   三「み、みんな!!!???」
   叶「あ、、、」
   栄「ヤベッ、見つかった、、、」

   尾行を失敗してしまった少年探偵団は、警察に追い込まれ、
   諦めて出頭する犯人のように二人に近づいていった。


   三「な、何、で、ここに、、、!」
   水「いやあ、たまたまだよ!なっ!」
   田「ん?んあ!そうそう!ゲーセン行こうとしたら
     お前らが居たから着いて、、、ムグッ!」

   花「お前らがいたからビックリしたんだよ!な〜!!!」
   栄「そ、そうそう!!後着けてたとかそんなんじゃないぜ!」

   無理矢理な言葉も、団結力があればなんとかなるだろうと、
   聞いてもないのに必死に言い訳をしようとする4人は正直な男だった。
   でも、そんな4人の命をかけた言い訳は。


   阿「何してんだよ」
   三「阿部、、、君?」

   怒りを押さえた阿部の声にアッサリと潰されてしまって。

   阿「お前、オレの誘いを断っといて他の男と何してんだよ!!」
   花「あああ阿部、お前何言い出すんだ!?」
   阿「うるさい!」
   三「あ、阿部、、、く、、、」
   阿「、、、っ!そんなに他の男がいいなら何処にでも行っちまえ!!!」
   花「阿部っ!!」

   怒りが頂点に達した阿部は、耐えきれなくなったように店を飛び出してしまった。

   三「あ、阿部、、、く、、、違、、、っ」
   叶「追いかけよう」
   三「え?」
   叶「何かわかんないけど喧嘩してんだろ?行くぞ、廉!」
   三「う、う、、、」
   花「ま、待てよ!俺らも行くよ!!!」

   慌てたように追いかけた三橋達は、散々探しまわった末に、
   小さな公園に阿部の後ろ姿を見つけて立ち止まった。


   三「阿部、く、、、っ」
   叶「行って来いよ」
   三「え?、、、でも」
   叶「オレらはここで待ってるから。いいだろ?」
   栄「え?う、うん!行って来いよ!」
   三「う、うん!」

   寂しそうな背中に、胸が苦しくなるのを感じる。
   自分が来るまでずっとこうしていたのかと思ったら
   いたたまれない気持ちがした。


   三「阿部、、、君」

   そっと近づいてブランコに腰掛けている阿部の背中に声をかけたけれど。
   振り返ってくれない事に激しい切なさを覚えるのは。
   いつもは眩しい程に自分を見つめてくれる綺麗な瞳が、
   今はこちらを見ようとしてくれないからかもしれない。


   三「阿部、、、く、、、ひっく、、、」

   もう二度と振り返ってもらえないかもしれないと思ったら堪らなくて、
   三橋は泣き出してしまった。


   阿「、、、わかってるんだ」

   そんな三橋に背中を向けたまま呟いた阿部は、悔しそうに拳を握りしめて俯いた。

   阿「こんな子供みたいな事言ってちゃいけないって事はわかってる!
     でも、お前を誰にも渡したくないし、誰にも笑いかけて欲しくないくらい
     お前が好きなんだ!」


   激しい独占欲は押さえようとすればする程溢れてきて。
   自分でもコントロールが効かなくなっていく。
   後ろで息を飲む三橋の姿を見たら泣いてしまいそうで、
   阿部は地面を必死に睨みつけた。


   阿「お前だって言ったじゃないか!オレが好きだって、俺の側にいたいんだって!
     それなのに、お前はやっぱりアイツを取るのか!?」


   ずっと考えていた事。
   三橋は、もう三星に未練はないと言っていたけれど、本当は帰りたいんじゃないか。
   自分より側に居たい人がいるんじゃないかと不安で仕方がなかった。
   楽しそうに名前で呼び合う二人を見ていたら不安は確信に変わっていって。
   確信はだんだんと憎しみに変わっていった。
   それでも、、、。


   阿「お前を、、、誰にも渡したくないんだ、、、」

   どうしても三橋を憎しみきる事が出来なかったのは。
   それ以上に愛しい気持ちが溢れて来て、嫌いになるなんて出来ないと思ったからだ。
   堪えきれなくなったように滲んでいく視界に、限界だと上を見上げたら。


   阿「、、、っ!」

   後ろから三橋に強く抱きしめられて目を見開いた。

   阿「はな、、、っせよ!」
   三「離さない、よ!」
   阿「アイツが好きなんだろ?アイツの所に行けよ」
   三「行かない、よ!行けるわけ、、、ない。だって」

   こんなに好きなのにという言葉は、
   堪えきれず繰り返される嗚咽に邪魔をされてしまって。
   ちゃんと伝わったか不安だったけれど。
   そっと手を握られる感触に、気持ちはちゃんと伝わったのだと掌を握り返した。


   阿「側に、、、いれくれ」
   三「離れない、よ」
   阿「お前が、好きなんだ」
   三「ぅ、、、ん、うんっ!」

   優しく阿部に身体を引きはがされて、
   やっぱりまだ気持ちが伝わってなかったのかと思った三橋は。
   振り向いた阿部が、困ったような、嬉しいような笑顔で笑っている事に気づいて、
   嬉しくなったように小さく笑った。


   三「阿部、君。好き、、、だよ」

   強く抱きついてくる三橋を抱き返して、安心したように息を吐いて目を開けた阿部は。

   阿「んがっ!!!」

   目の前にチームメイト達がズラリと並んでいた事に気づいて固まってしまった。

   三「阿部君?」
   阿「お、お前ら、、、今の、、、聞いて?」
   三「えっ!?」

   慌てて振り向いた三橋は、
   まさかそんな近くに友人達が来ていると思わなかったのだろう。
   腰を抜かしたように顔面蒼白のままその場に座り込んでしまった。


   栄「聞いてって言われてもな、、、」
   水「聞くなって方が、、、無理だよな」
   花「お、お、お、お前ら、、、っ!!!」
   田「うわ〜スッゲー事実発覚って感じ!」

   様々な様子で見つめてくる仲間達に目眩を感じた阿部は、
   叶が何も言わずこちらを見つめている事に気づいて
   敵対意識を燃やしたように放心したままの三橋を抱きしめた。


   阿「そうゆう事なんだよ!わかったか?」

   この際開き直った者勝ちだと思ったのか、
   ふふんと鼻で笑って偉そうに言う阿部は無敵だ。
   愛されているという事実に自信を持っている男程手に負えないものはない。
   そんな阿部をじっと見つめていた叶は、
   何かにやっと気づいたように小さく手を打った。


   叶「そうだったのか!」
   阿「な、なんだよ!!」
   叶「オレ、廉が好きだったんだ!」
   阿「は?」

   言われた意味が分からなくて首を傾げた阿部は。

   叶「廉が可愛い、廉の側に居たい、廉にも側に居て欲しいって
     何で思うんだろうってずっと謎だったんだけど、
     お前ら見ててやっと気づいたよ。これは恋だったんだって!」

   阿「なっ!」
   花「え、ええええええええ!!!???」
   水「類は友を呼ぶってやつか」
   田「すげー。ホモばっか!」
   叶「気持ちに気づいちゃったからにはオレも諦めないから!」
   阿「てめ、、、っ!!!」

   それだけ言うと未だ放心したままの三橋の頬に口づけて去って言った叶を見て、
   自分のしてしまった過ちに顔を真っ青にした。


   水「これって、眠っていた赤子を起こしちゃったってヤツ、、、?」
   栄「あ〜あ、自業自得だね」

   ヤキモチを妬いていた為の行動だったとはいえ、
   自分からライバルを増やすような事をしてしまった事実にガックリうなだれる。
   増やさなくてもいい敵を増やしてしまったのだ。


   三「あああ阿部、、、君」

   あまりの悲壮な顔つきに心配になったのか、
   やっと復活して不安そうに見つめてくる三橋になんでもないよと笑いかけてやって。


   阿「お前はずっとオレだけのピッチャーだ」
   三「阿部、、、君!」

   そっと消毒をするみたいに三橋の頬に口づけた阿部は。

   田「ちょっとまったああああああ!!!!」
   水「勝手にハッピーエンドになられちゃったら困るんだよね〜」
   花「お前、お前は、、、っ!あ、、、」
   栄「うわぁっ!花井が倒れたぞ!!!」
   田「とにかく!」
   全「今までの事を全て吐け!」

   少年探偵団の過激な尋問から逃れる為に。

   阿「三橋はオレのものだって事だよ!」
   三「あ、あべ、、、うわあっ!!!」

   怪盗ルパンのように三橋を強奪して逃げ出してしまった。

   END

   おまけ


   阿「ところで、何でお前ら名前で呼び合ってたんだよ」(怒
   三「え?オ、オレら家が、近所で、幼なじみ、で、それで、、、っ!」(汗
   阿「、、、それだけの理由の為にオレは妬いていたのか、、、」(遠い目
   三「え?」
   阿「なんでもないよ」(涙


   *********

   ぼ、ぼ、僕らは少年探偵団〜♪
   なんかうちの阿部君、ヤキモチばっか妬いてますね(苦笑

モドル