1年B組ゲイ八先生

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   2.愛のバクダン

   厳かに行われる空気は、新入生達の色めく空気に掻き消されていく。
   舞台上で延々と喋る名前も知らない人物の祝辞よりも、
   自分達のこれからの方が若者達には大切なのだろう。

   「成すべきかキュウリべきか…」

   明らかに空気を読み間違えている下らないギャグが込められた祝辞に、
   誰も耳を貸していないのがその証拠と言えるだろう。
   舞台上で必死な姿が逆に哀れに映る程だ。

   「ね、ね、兄貴!誰が担任になると思う?」

   隣で深い眠りに落ちかけていたサーフに耳打ちしたシエロは、
   視界の隅に微妙に映っている教師達を見て笑いかけた。
   生徒達の頭で見えにくいが、体育館の端には新入生同様に晴れやかな顔で座る教師陣がいる。
   こうなれば先生トトカルチョが始まるのは当然と言えるだろう。
   入学式の楽しみと言えば、自分の希望する美人な先生に賭けて、希望通りの展開を神に感謝するか、
   全然違う鬼軍総だと言われ未来を悲観するかの、未来を担う大イベントだと言えるかもしれないのだ。
   青少年のヤワなハートは先生一人にも左右されると言えるだろう。

   「私はあの人にするわ!」

   早速話しに乗って来たアルジラが指差した人物は、金色の短い髪に眼鏡と不精髭を備えた、
   良く言えばワイルド、悪くいえばだらし無い感じの男だ。

   「それはまた…なかなか…」

   このおじ様好きめ、と言う訳にもいかず、シエロはモゴモゴと言葉を濁した。
   正直あんなだらし無い感じの担任は嫌だと心の中で絶叫する。
   シエロの理想は雲より高いのだ。

   「…アレ…かな」

   てっきり寝ているものだと思っていたサーフが、不意にポツリと呟いて誰かを指差した。

   「うわっ!兄貴いいね〜!!」

   指先に目をやった先には緑色の髪に切れ長の瞳。
   豊満としか言いようの無い胸元を大胆に開けたスーツを着た女性だった。

   「いや、逆にあれじゃ授業集中出来ねーって!」

   元々集中する気もないけど、なんて笑いながら自分のお目当ての先生を探す。

   「赤髪のゴツイおっさんは嫌だし、黒髪のキツそうな美人もいいけど…」

   見えにくい教師達を頭を左右に揺らしながら一生懸命に見ていく。
   やっと全ての教師を確認した瞬間。
   ふとキョロキョロしているシエロが気になったのか、
   一番端の席に座っていた教師がチラリとこちらに目をやった。

   「…いた」

   瞬間、シエロは体中に熱い電流が流れるのを感じて、
   思わずその人物を凝視してしまった。
   直ぐに反らされてしまった伏し目がちな瞳はとても綺麗なエメラルドグリーンで。
   同色の瞳は邪魔なのか後ろに流されていたが、
   数本流しきれなかった髪が顔に落ちている様は、
   ひどく憂いを含んでいる様に見えた。

   「アレ!絶対あの先生だよ!!」
   「アレって、あの男の人?…好みじゃないわ」

   嫌そうに溜息を吐くアルジラなんてこの際無視だ。
   本当に運命というものがあるのだとすれば、
   きっとこんな時の事を言うんだろうと思える程衝撃的な出会いだった。

   「絶対あの先生だよ!だって俺、今運命感じたんだもん!!」

   もう回りのものは何も目に入らないというようにその教師ばかり見つめ続けて。
   反らされた瞳がもう一度こちらを見てくれる事を祈りながら幸せそうに微笑んだ。

   続く

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   まだまだ引っ張りますよ(笑)

モドル