1年B組ゲイ八先生

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   1.春三

   3月。
   新たな一歩を踏み出そうとしている人々を祝う様に桜達は咲き乱れ。
   期待と不安に胸を膨らませた子供達が、静かな道を楽しそうに駆けて行く。
   そんな姿を窓から眺めたシエロ自身も、やっと高校生になれたという喜びに胸を弾ませていた。
   一見まだ小学生のような柔らかさの残る頬は、強気な青紫の瞳が年相応に見せていて。
   頭の上で結い上げた瞳と同じ色の長い髪は個性的な6つの三ツ編みにしてある。
   どこから見ても健全な男子高校生だと鏡に向かって笑いかけて。

   「行ってきまーす!」

   上下鼠色の学ランの襟をしっかり止めると、家を飛び出した。


   『1年B組ゲイ八先生』


   シエロが今日から通うニルバーナ学園は、
   何処の楽園だと言わんばかりの広い敷地と調った設備で有名で。
   その分とても人気があり入学志願者も多い。
   成績でもけして上の方とは言えないシエロが合格出来たのは、入試前の必死の追い上げのお陰だろう。

   「あ!兄貴!サーフ兄貴ー!!」

   通学路の前方に見知った銀色の髪を見つけて、シエロは嬉しそうに駆けて行った。

   「よっ」

   けして口数の多くないサーフは、それだけ言うとまたスタスタと歩き出した。
   綺麗に切り揃えられた銀色の髪と、透き通る様な同色の瞳がとても印象的で、
   どこと無く中性的な雰囲気を持った彼は
   何度も道で芸能プロダクションの人に声をかけられる程調った顔立ちをしている。
   二人は同い年だが、幼稚園の頃虐められていたシエロをサーフが助けて以来、
   シエロはサーフを『兄貴』と呼んで実の兄のように慕っていた。
   ニルバーナ学園に入学する事が出来たのも、
   何でもソツなくこなすサーフの力添えがあった事は言わずもがなだ。
   そんな彼はシエロの自慢の友達で尊敬する人物なのだ。
   態度自体は素っ気ないが、それが普通な事を知っているから、シエロも笑いながらサーフの隣を歩く。

   「兄貴と一緒のクラスならいいのになー!」

   早く学校に行きたいと言わんばかりに跳びはねるシエロに苦笑して。
   サーフは目の前に近付いて来た学園を見つめた。

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   体育館の入口で手渡されたクラス割りの紙の通りに二人で1年B組の列に座って。

   「同じクラスでよかったよなー」

   どんどん増えてくる面々に目を丸くして周りを見回す。
   様々な髪の色が体育館に溢れる様は、絵の具をぶちまけたパレットのようで何だか可笑しかった。

   「シエロ!サーフ!」

   不意に後ろからかけられた声に目をやった二人は、駆け寄って来るピンク色の髪に大きく手を振った。

   「アルジラ!」
   「もしかして一緒のクラス?」

   色っぽい腰つきで笑いかけてくるアルジラも、幼稚園時代からの腐れ縁仲間だ。
   左の眉の上から頬にかけて裂かれたような手術痕が痛ましいが、
   決してアルジラの美貌を損なうものではなく、
   寧ろミステリアスな雰囲気を醸し出す魅力の一部になっている。

   「アルジラー。高校生になったからって厚化粧すんなよなー」
   「これは地顔よ!」

   さっきも教師に呼び掛けられたと愚痴るアルジラは、シエロの頭を殴ると隣に腰掛けた。
   そんな二人を楽しそうに目を細めて見ていたサーフは。

   「あっ…」
   「んがっ!」

   通路側の足を広げた瞬間に、自分の足に誰かが躓いて盛大にこけてしまったのを見て、
   焦ったように立ち上がった。

   「悪ぃ。業とじゃないんだ」

   情けない姿で倒れていた赤い髪に手を差し出したけれど。

   「貴様…っ!」

   顔から突っ込んだのか、高い鼻を押さえながら燃えるような瞳で見つめた青年は。

   「可哀相〜」

   周りの反応に顔を赤らめると、差し出されたサーフの手を叩いて立ち上がって。

   「覚えてろよ…っ」

   吐き捨てるように呟くと、前の方の席に座りに行った。

   「ぅわ、恐ぇ…よりによって同じクラスかよ〜」
   「何やってんのよ、サーフ!」

   ああいったタイプは根に持つんだと焦ったシエロとアルジラは、
   仕方ないという風に眉を持ち上げるサーフを見て、
   何故自分達の方が心配しているんだと溜息を吐き出した。

   続く

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   何故パラレルなのか、、、。
   それは、まだ出ぬアノ人を先生にしたかったからです(笑

モドル