君と僕の未来の為に

   *********


   ここはネオジャパンにあるとある一軒家。
   この日、レインは朝からご機嫌だった。
   ウキウキと道場に行くドモンを送り出した後、
   家中を隈なく掃除したりするのに大忙しで。

   「ママなんであんな急がしそうなのかしら」

   アレンとトウヤは不思議そうに首を傾げた。
   レインが忙しそうにしているのはいつもの事なのだが、
   今日はいつもと雰囲気が違うのだ。

   「ふーんふふ〜ん」

   楽しそうに鼻歌まで歌っているレインに驚いた二人は、
   そういえば去年の今頃もこんなレインを見たのではないかと思い出した。
   あれは一体どんな理由だったのか。
   ただレインが今日のように幸せそうで、
   何故か沢山出て来たご馳走を何も気にせず食べていた気がする。

   「ね、ねぇママ。どうしたの?」

   不思議そうに聞いてくる子供達を見つめたレインは、楽しそうに笑って。

   「内緒」

   そっと自分の唇に人差し指を当てて、また浮かれた様に掃除をしだした。

   「…何なんですかね?」
   「わかんない」

   やっぱり理由はわからなかったけれど、レインがひどく嬉しそうだから。

   「トウヤ、手伝うよ!」
   「え?あ、はい!」

   理由なんてどうでもいいように思えて、アレンは小さく笑うと、
   手伝う為にレインの元に駆け寄って行った。
   そんな時間が楽しくて、アレンはこの後起こる事など、想像すら出来なかった。
   そう、一瞬にしてレインの笑顔が消えてしまうなんて…。


   「レイン!」

   玄関の扉が開く音がして、ドモンが帰って来た事を知ったレインは。

   「あ、パパが帰って来たわよ!」

   沢山用意したご馳走達の事は内緒だと子供達に言って、
   嬉しそうに玄関に駆けて行った。

   「おかえりなさい!…あら?」

   そしてそこに、懐かしい顔がある事に驚いて足を止めた。

   「レイン、久しぶり!」
   「ア、アレンビー!?」

   そこには久しく会っていなかったアレンビーが、ドモンの横に立っていた。

   「どうしたの?さ、上がって」

   昔はお互いドモンを好きになって、
   ドモンもアレンビーが好きなんじゃないかと悩んだ時期もあった。
   でもドモンはレインが好きだと言ってくれて、
   アレンビーもそんな二人を祝福してくれたのだ。
   急に昔の事が走馬灯のように浮かんで、
   何だか照れ臭くなって笑えてくるけれど。

   「ドモン…アレンビー…?」

   嬉しそうにスリッパを用意するレインを見つめる二人の様子が
   いつもと違う事に気付いて、レインは不思議そうに二人を見つめた。

   「今からアレンビーと二人で出掛ける」
   「え?どうして…」

   ドモンの口から発せられる真剣な声に戸惑ってしまう。

   「今夜は帰ってこれないかもしれないから先寝ててくれ」

   まるで突き放したような冷たい声に、
   アレンビーも申し訳なさそうに手を合わせた。

   「ママ?どうしたの?」

   なかなか入ってこようとしない三人に焦れたのか、
   近づいてくるアレンとトウヤすら気にならない。

   「どうしたの?何かあったの!?」

   ただ、どうして急にドモンがそんな事を言い出したのかわからなくて。
   縋るような瞳で二人を見つめる事しか出来なかった。
   そんなレインに向けられたのは、質問に対する答えでも謝罪の苦笑でもなくて。

   「お前には関係ない!」

   ただレインの全てを否定するような冷たい言葉だった。
   普段なら仕方ないと溜息の一つでも吐いて見送る事も出来たかもしれない。
   でも今日は、今日だけはどうしてもそれは出来ない気がして。

   「ドモン!」

   理不尽な言葉に対する怒りに、
   咎めようとするアレンビーの声にすら憤りを覚えた。

   「でもドモン、今日だけは絶対予定は入れないでって…」

   それでも今日だけは、どんなに我が儘だと言われても側にいて欲しかった。
   子供のような駄々をこねているのはわかっていたけれど。
   今日だけは他の誰でもなく、自分と一緒にいて欲しかったのだ。
   縋るような瞳でドモンを見つめたレインの願いは。

   「っ!そんなものどうでもいい!」

   苛立ったような声に簡単に崩されてしまって。
   レインは自分の頬に一筋の涙が流れた事に気付いた瞬間、
   家を飛び出してしまった。

   「レイン!」
   「パパひどいよ!ママ、今日すごく楽しみにしてて、
    ご馳走まで作って早くパパが帰ってくるといいねって…!」

   俯くドモンに堪らなく腹が立って、アレンは立ち上がるとドモンを睨み付けた。
   けれど何も返答がない事に余計怒りが込み上げて来て。

   「行くよ!トウヤ!!」
   「は、はい!」

   トウヤの手を引くと、家を出て行ってしまった。
   そんな二人を見て強く自分の拳を握り締めたドモンは。

   「ドモン、いいの?」

   アレンビーの困った声に聞こえなかった振りをして、
   苛立たしげに舌打ちをした。

   *********

   →2
   ドモンは何故アレンビーと出て行こうとしたのか。
   レインは何故今日だけは一緒にいて欲しかったのか。
   これからまだまだ(?)続きます。

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