はじめてのおつかい

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   ここはネオジャパンにあるとある一軒家。
   この日、カッシュ一家は朝から大騒動だった。

   「早くしなきゃみんながきちゃうわ!」

   家中駆けずり回るように掃除をしたり料理を作ったりするレインは、
   急に決まってしまった予定に大慌て。
   それもそのはず。
   一家の主であるドモンが、何も考えずいきなり
   シャッフル同盟の仲間を呼ぶと言い出したからだ。
   しかも、呼ぶと言った当の本人は、現在みんなをお迎え中でいない。

   「何も急に呼ばなくったっていいじゃない!」

   レインが思わず愚痴を零してしまうのも仕方がないのかもしれない。

   「急がしそうね〜」
   「ぼくたちもお手伝いした方がいいんですかね」

   レインの姿を飴を舐めながら見ているのは生意気盛りの女の子、アレン。
   父親似の瞳をしたとても勝ち気な女の子だ。
   そして、その隣で子供らしかぬ言葉使いをしているのがトウヤ。
   誰に教わったのか敬語でしゃべるトウヤは、
   母親似で泣き虫なので、よく女の子に間違えられている。
   目の前を何度も行ったり来たりするレインを見て、
   おろおろと困った顔をするトウヤは。

   「あるわけないじゃない」
   「なんでですか?」

   アッサリとアレンに返されて、戸惑ったように聞き返した。

   「あんた、覚えてないの?あたしたちがこの前お母さんの大事な花瓶壊した事」
   「あれはアレンが暴れたから…」

   怨みがましい瞳でアレンを睨んだトウヤは、
   逆にもっと強い瞳で睨み返されて、
   何も言えなくなってしまったように俯いた。
   以前、大掃除を手伝っていたアレンは、
   暇になったのでほうきを振り回して遊んでいたところ、
   レインが大事にしていた花瓶を割ってしまったのだ。

   「アレンのせいでぼくまで怒られたんですからね」

   事もあろうにアレンは、二人で遊んでて壊したと言ったせいで、
   関係ないトウヤまで怒られてしまったのだ。

   「仕方ないじゃない、ママ怖いんだから、、、」
   「たしかに…怖かったですけど…」

   普段温厚なレインは、二人にとって怒るととても怖い存在になるらしい。

   「だって、涙浮かべて『駄目でしょ?』って言うんだもん」
   「あれにはパパも勝てないですからね…」

   大声で怒鳴られるよりも、泣きそうな顔で優しく怒られた方が
   心が痛むのは何故だろう。
   ドモンもよくその手で負けているのだから、
   あの顔はレインにとっての必殺技と言えるだろう。

   「あー!!卵と小麦粉がない〜!!!」

   突然家中に響いた声に二人が驚いていると。

   「どうしよう、私は行けないし…でも、お使いに行かせるのは心配だし」

   困った顔で二人を見るレインと目が合って、嬉しそうに笑ったアレンは。

   「あたし、行く!!」

   はい!と手を挙げて返事をした。

   「でも危ないし…」
   「大丈夫よ!あたしだってもう小学校一年生だし、
    何よりパパとママの娘なんだから!何だって出来ちゃうわ」
   「そう?」

   それでも不安そうにアレンを見つめる瞳に大きく頷いて。

   「じゃあ、お願いするわね」
   「アレンすごいです!気をつけて…」
   「行くわよ!トウヤ!!」
   「え?ぼくもですか!?」

   レインからお金を預かると、トウヤの腕を無理矢理引っ張って家を飛び出した。

   ***********

   「ママもいつまで経ってもあたし達を子供扱いして!」
   「…なんでぼくまで…」
   
   目的の物を買う為のスーパーはずっと真っ直ぐ20分程歩いた所にある。
   子供にとってはとても長い道のりだが、
   二人はそれぞれの思いでゆっくりと手をつないで歩き出した。

   「アレン、楽しそうですね」
   「ん?まぁね〜☆」

   いつもはドモンかレインと一緒に歩いている道が、
   なんだか新鮮に思えて嬉しくなるのは。
   初めての『お使い』という言葉に、ちょっとだけ大人になったような
   得意な気持ちになるからなのかもしれない。

   「トウヤもいつまでもウジウジしてるんじゃないわよ!お手伝いしたかったんでしょ」
   「そうですけど…」

   チラチラと周りを伺うトウヤには理由があるのだ。

   「あのお兄ちゃん達がいないか心配なんです」

   この周りでは時々、小学校高学年くらいの悪ガキ達が暴れ回っていて。
   トウヤは何度もその子供にからかわれてはアレンに助けられていたのだ。

   「情けないわね!それでもパパの子供?やっつけなさいよ!」
   「ぼくはアレンじゃないんですよ…」

   高学年だろうと男の子だろうとかまわず暴れ回るアレンは、
   一部の女の子に崇拝者がいる程の強さを誇っていた。
   レインと同じで温厚な性格をしているトウヤは、
   アレンと違い、ただ耐えるように涙を浮かべるしか出来ないのだ。
   本当はその顔がとても可愛いからいじめたくなるのだと
   トウヤは知らないのだろう。
   好きな子をいじめたくなる心理と一緒なのだ。

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