はじめてのおつかい2

   *********


   仲良く手を繋いで10分程歩いた時。

   「よぉ、泣き虫チビ!」

   不意に、後ろからかけられた声にビクリとしたトウヤは、
   泣きそうな顔で後ろを振り返った。

   「また暴力女に守ってもらってんのか!」
   「や〜い!弱虫毛虫〜!」

   いつもトウヤをからかっている子供達の中でも、
   特に中心である3人組が楽しそうに二人を見つめていたのだ。

   「行こう、トウヤ!」

   ムスッとした顔でトウヤの手を引くアレンに引きずられるように歩く。

   「なんだよ、逃げるのか?弱虫〜」

   そんな二人をよけい楽しむように追い掛けながら叫んでくる声に。

   「ぅりゅ…」

   泣き出してしまったトウヤを見たアレンは、
   我慢出来なくなったように後ろを振り返った。

   「あんた達!いい加減にしないと承知しないわよ!」
   「ぅわ〜!恐ぇ!トウヤの泣き虫!王子様に守られてるだけのお姫様〜」

   そんな二人を笑いながらも、父仕込みの構えをするアレンが恐いのか、
   近づいてこようとしない子供達に腹が立つ。

   「うえぇ…」
   「泣くなっ!」
   「っ!…ひっく…」

   それに対して泣く事しかしないトウヤにも腹が立った。

   「母さんが言ってたぞ!あそこはお父さんが乱暴者だから娘も乱暴者なんだって!」

   子供というのは純粋で。
   無垢な分だけ残酷な言葉を平気で使ってしまう。
   それがどれ程相手を傷つけるか知りもしないからなのだろう。

   「パパは…乱暴者なんかじゃない!」

   いやらしい顔で笑う子供達を強く睨み付けたアレンは。

   「ぅ…うわぁああああん!」

   トウヤの泣き声が合図になったように飛び掛かって行った。

   ***********

   「泣くなって言ってるでしょ!?」
   「…ひっく…ぐ…ひっく」

   傷だらけになりながらも3人をボコボコにしたアレンは、
   早歩きで歩きながら、後ろを着いてくるトウヤを怒鳴り付けた。

   「パパの悪口を言われたんだよ!?なんであんたは怒んないのよ!」
   「だって…叩いたらかわいそうだから…っ」
   「っ!馬鹿じゃないの!?」

   いつも守られるだけで何もしようとしないトウヤに苛立った。
   普段はトウヤを守る事を得意に思っていたし、頼られるのが嬉しかった。
   でも、父の悪口を言われても相手が傷つくからと何もしないのを見ていると、
   無性に怒鳴り付けたい衝動にかられる。
   アレンにはトウヤの気持ちなんてわからないし、わかりたくもなかった。
   悪口を言われて大人しくしているなんて、とても出来ないのだ。

   「っ!あんたなんかもう知らない!弱虫!」
   「アレン…っ!」

   言葉を投げ付けるように叫んだアレンは、
   追い掛けてこようとするトウヤを振り切って、
   一人先に走って行ってしまった。
   後ろで躓いてこけてしまったトウヤが目に入ったけれど、
   それすら気付かない振りをして…。

   ***********

   見えなくなったトウヤを無視して、卵と小麦粉をスーパーで買ったアレンは、
   初めて自分だけで買い物をしたという喜びに、上機嫌だった。

   「トウヤ!やった…」

   嬉しそうに後ろを振り返ったアレンは、
   そこに小さな弟の姿がない事に気付いて。

   「…トウヤのばか」

   そういえば置いて来たんだと、バツの悪そうな顔をして呟いた。
   自分の足で走ってもけっこうあった道のり。
   自分より小さな弟の足ならばどれだけ大変だろうか。
   一人で迷子になってないだろうか。

   「…関係ないもん」

   途端に胸に広がる不安を掻き消すように買い物袋を抱え直したアレンは、
   スーパーを出て、来た道を一度ちらりと振り返ってから、
   来た道とは違う道を歩き出した。

   「だーれにっもっなーいしょーでぇ〜おーでーかーけーしーたの」

   不安な気持ちを押し隠すように大声で歌いながら歩いていたアレンは。

   「どーこーに…」

   ぽつりと小さく呟いて立ち止まった。

   「トウヤ…」

   『アレン!』

   いつも楽しそうに笑いかけて笑顔が頭に浮かぶ。
   本当は、泣いてばかりのトウヤが可愛くて仕方がなかった。

   『お前はお姉ちゃんなんだから、トウヤを守らなきゃな』

   父に頭を撫でながら言われた言葉に、
   自分はトウヤを守るんだと心に強く誓った。
   頼られるのが堪らなく嬉しかった。

   「…トウヤ」

   最後にトウヤを置いて走り出した時の、ひどく傷ついた瞳を思い出す。

   「トウヤ!」

   きゅっと小さな指を握り締めたアレンは、
   強く前を見つめてスーパーに向かって走り出した。
   もしかしたらトウヤはそこに来てアレンを探しているいるかもしれない。
   今、あの傷ついた瞳を笑顔に変える事が出来るのは自分だけなのだ。

   「ごめん!ごめんね、トウヤ!」

   少しでも早くトウヤに会おうと力の限り走っていたアレンは、
   しばらく走った所でふと、通った事のない神社が目に入って立ち止まった。
   ずっと奥の方に、大きな池を挟んでもう一つの入口が見える。
   そしてその向こうに、行きに通った道路が見えた。
   今まで知らなかったのは、その神社が家と家の間の影に隠れていて、
   向こうの通りからは見えなかったからだろう。
   そこを通れば近道出来ると考えるよりも早く身体が神社に向けて動いていた。

   *********

   →3ヘ
   6歳の子供が考えるような事じゃないっすね(苦笑)
   ちなみに、アレンが歌っているのはB・B・クイーンズの
   『ドレミファだいじょーぶ』です☆

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