かなしそうな顔2

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   [3:君のいちばんに、、、]

   レインがシュバルツを連れて来たのは、
   ネオ香港最大のテーマパークといわれる遊園地だった。
   少しでも人々を元気づけようと計画されて作られた遊園地で、
   広大な土地を利用して造られたそこは、
   恋人達のお勧めスポットとして
   よく雑誌や記事にも取り入れられている程有名らしい。

   「一度来てみたかったの」

   今は平日な上に、殆どの人がGF観戦に行っている為か人は疎らで、
   殆どのアトラクションを待たずに乗る事が出来た。

   「こんな所に来たくなるとは、君もまだまだ子供だな」

   苦笑するシュバルツも楽しんでいるのは雰囲気で伝わって来る。
   今だけは何も考えずこうしていたいと思うのは、
   最高の贅沢で最大の我が儘な気がした。
   様々なアトラクションは楽しくて、
   二人の距離を少しだけ縮めてくれる気がする。

   「は、入る…の?」

   恐いと有名なお化け屋敷の前で入るのを躊躇っていたけれど。

   「デビルガンダムには勇敢に立ち向かっていくのに」

   こんなおもちゃが恐いのか、なんてからかうように言われて。

   「そ、そんなまさか!」

   なんだか悔しくて張り切って入って行ったのはいいけれど、やっぱり恐くて。

   「…」

   そっとバレないようにシュバルツの側に寄ったら、
   強く掌を握られてひどく胸が高鳴った。

   「怖がりだな」

   シュバルツの笑いを含んだ声に、懐かしさを感じてレインは目を細めた。
   昔にも確かこんな事があった。
   確か両親が二人で出掛けてしまってレインがカッシュ家へ預けられた時。
   夜両親がいない事が恐くて、眠るドモンの隣で小さく泣いていたら。

   『レインは怖がりだな』

   同じように笑いを含んだ声で近づいて来てそっと掌を握ってくれた温もり。

   『こうしていれば眠れるだろう?』

   あの時もひどく胸が苦しくなって。
   でもその温もりが優しくてすぐに眠ってしまった。

   「キョウジ…さん」
   「どうした?レイン」

   訝しげに聞いてくるシュバルツに、そんなわけはないと首を振って、
   握られた掌の温もりを少しでも多く感じていられるように握り返す。

   そうするとより一層胸が高鳴って、
   それがシュバルツに聞こえてしまわないか気になってしまって、
   お化けなんてちっとも恐いと感じなかった。



   [4:とびきりの夜]

   予想以上に長いお化け屋敷を出る頃には、
   いつの間にか日は暮れてしまっていて。
   満天の星が空に輝く時間になってしまっていた。

   「もうこんな時間か…」

   シュバルツの声と放された掌の温もりに
   途端に離れたくない気持ちが溢れてくる。
   このまま時が止まってしまえばいいのに、なんて。
   出来るわけもない考えに自分で笑ってしまう。

   「もう…帰らなきゃ」

   みんなが心配すると呟く言葉は、シュバルツに言うというよりは
   自分に言い聞かせる言葉のようになってしまいそうで。

   「ドモンが怒るわ…」

   笑いながら言った言葉が震えている事に
   気付かれない様にするのが精一杯な気がした。
   期待なんてしてはいけないのだ。
   自分達は敵同士で、本当なら一緒にいる事すらいけないはずなのだから。

   「明日頑張って…なんて…私が言える立場じゃ」

   ないわね、なんて精一杯軽く言おうとした瞬間
   強く手を握られて驚いた様に固まってしまう。

   「まだ…アレには乗っていないだろう?」

   そっと指をさされた先に見えた大きな観覧車に、
   堪え切れず溢れ出した涙を隠すように何度も頷いた。

   世界最大といわれる観覧車はさすがに人気があるらしく、
   待たずにすぐ乗るという事は出来なかった。
   一秒が一時間にも思える時間を二人無言で手を繋ぎながら過ごす。
   掌を先に放したのは一体どちらだったのだろう。
   やっと乗れた観覧車の左右の席に座って静かに流れる景色を眺めていた。

   「静かね…」

   もう今日のGFも終わったのだろう。
   ざわめく町並みから隔離された観覧車の中はひどく静かで。
   窓から見える夜景が神聖な物に思える程綺麗だった。
   後何分乗っていられるのかわからなかったが、
   確実に頂上に近づく観覧車に切なさを感じずにはいられない。

   「時間が…」

   不意に聞こえた声にシュバルツに目をやる。
   外を見つめたままの瞳はレインを見る事はなかったけれど、
   ひどく悲しげに見えた。

   「…いや、何でもない…下の世界の時間が止まっているみたいだなと…」

   思ったんだ、なんて呟くシュバルツが
   本当は何を言いたかったかはわからなかったけれど。
   握り締められた掌と綺麗な黒い瞳が淋しげに震えていた事は、
   一生忘れられないと思った。

   *********

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   シュバルツは例えレインの事を想っていても口にしないようにすると思います。


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