旅立ちの詩

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   「兄さんを生き返らせるだって!?」

   DGを苦闘の末倒してから2年−。

   地球の街は復活の兆しを見せ、コロニーからの救助もあり、
   少しずつだが元の美しさを取り戻しつつある。
   そんな中、ネオジャパンにある大きな研究所内にドモンの叫び声が響き渡った。

   「そうだ。研究はもうすぐ完成する」

   天才的な博士と呼ばれるドモンの父、ライゾウは、
   驚くドモンを横目に大きく頷いた。

   「でもおじ様、死んだ人間を生き返らせるなんて事実的に無理だわ!」

   医者として人の生死を何度も見て来たレインは、苦しそうに瞳を歪めた。

   「ああ、『人間』ならばな…」
   「え?」

   ライゾウの意味深な台詞に首を傾げた二人は。

   「これを見たまえ」

   透明の細長い筒の中に浮かぶ、小さな銀色の塊を見つめた。

   「こ、これは!」
   「DG細胞!」

   その中にあった物は、DGが消滅した際、
   一緒に消え果ててしまっていたと思っていたDG細胞だった。

   「何故こんな所にこれが…」
   「お前達にキョウジとシュバルツの話を聞いて
    即座に現場に行って探し出した物だ」

   ライゾウの話によれば、荒れ果てたランタオ島を必死に調べた結果、
   一部凍り付いてしまっていた区画に
   このDG細胞が冷凍保存されるように残っていたのを発見したらしい。

   「凍り付いて…?」
   「ああ。あそこには光りが一年中当たらない区画というのがあってな、
    凍り付いてしまうらしいのだ。そこに偶然これがあった」
     「だが、これは誰に付いていた細胞か分からないんじゃないのか?」
 
   ドモンの問いに首を左右に振ったライゾウは、側にあるキーボードを叩き、
   目の前にある大きなモニターに何やら映し出した。

   「DG細胞とは金属細胞だが、
    それを普通の細胞レベルまで分解し記憶を読み取ったのだ」
   「細胞から記憶を…?考えられないレベルだわ」
   「レイン、私を誰だと思っているね?」

   優しい笑顔を浮かべるライゾウに、レインははにかむように微笑んだ。
   相手は天才といわれ、アルティメットガンダムまで開発した
   天才的な博士なのだ。
   父もその才能を羨んだ程の博士には、無用な言葉なのだろう。

   「そしてその結果、キョウジ…いや、
    シュバルツ・ブルーダーの細胞である事が判明した」
   「シュバルツの!?」

   ドモンとレインは、驚きを隠せない様に互いを見つめ合うと、
   再びライゾウを見つめた。

   「人間の細胞はすぐ死んでしまう。
    しかし、DG細胞は細胞自身に復活しようとする機能がある。
    DGが滅んでしまったのでこの細胞も滅びかけてたがね…だがまだ生きていた」

   おかげで細かく調べる事が出来たのだと言う言葉に、
   ドモンは苦々しい顔で瞳を伏せた。

   「この細胞をあれに組み込めばキョウジは生き返るはずだ」
   「兄さん!」
   
   再びライゾウがキーボードを叩くと、
   目の前に水中に浮かぶキョウジの姿が映し出された。

   「おじ様…あれは!」
   「キョウジそっくりに作られたアンドロイドだ。
    臓器も脳も、人間と大差ない。だから年も取るし自分で感じ、
    考え、行動出来る」
   「臓器の機械化が進んでいると知ってはいたけれど…すごすぎるわ」
   「感心してる場合か!」

   不意に、側にあった机を殴り付けたドモンに驚いた二人は、
   怒気を含んだ悲しそうな瞳を見て固まってしまった。

   「兄さんを人形にするだって?ふざけるな!
    あんたは…あんたは兄さんを何だと思ってるんだ!?
    兄さんは研究材料のモルモットじゃないんだぞ!」
   「ドモン!」

   耐え切れなくなったように部屋を
   飛び出して行ってしまったドモンの後ろ姿を追い掛けようとしたレインは。

   「これだけは…聞かせてください」

   ライゾウを振り返って息を吐き出すと、真剣な強い瞳で見つめた。

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