旅立ちの詩2
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研究所を飛び出したドモンは、何に怒りをぶつければいいのか分からず、
ただひたすらに海辺でシュバルツの刀を降り続けていた。
「はぁあああ!はあっ!」
兄が生き返ると聞いて嬉しかったのは事実だ。
たった一人の兄なのだ。嬉しくない訳がない。
だが、それと同時に堪らなく腹が立った。
「たあっ!ふぅぅ…」
ライゾウがアルティメットガンダムさえ作らなければ、母が死ぬ事も、
キョウジが死ぬ事も、東方不敗が死ぬ事もなかったかもしれない。
「はあぁっ!」
こんな事を考える事すら間違っている事は分かっていた。
だが、死んだ兄まで研究材料にしようとする父が許せなかった。
何より、もしキョウジが生き返ったとしても、
また自分を殺す為に向かって来たら…。
「くっそぉおおおっ!」
地面に叩きつけるように刀を振り下ろしたドモンは。
「誰だ!」
背後に人の気配を感じて振り返った。
「…レインか」
優しく微笑むレインをちらりとだけ見て、ドモンはまた刀を握り直した。
「あなたの気持ちはよく分かるわ…ドモン。でもね」
「うるさい!」
普段はとても落ち着く柔らかい声が勘に触る。
「お前に何が分かる!知った風な口を利くな!」
途端に傷ついた瞳が揺れるのを見て、ドモンはしまったと舌打ちした。
「…すまんレイン…お前だって父親を…」
「いいの…いいのよ」
背中からそっと抱き締められて、ドモンは驚いたように刀を落としてしまった。
「ごめんなさい…ドモン」
小さく震える指に、自分自身に腹が立った。
自分は2年前と何も変わっていない。
怒りに任せて大切なものを見失うなと教えてくれたシュバルツの言葉を、
また忘れるところだった。
「怒鳴りたいなら怒鳴られてもいい…
あなたは自分一人で苦しみを抱えすぎなのよ。
もっと…私を頼ってちょうだい」
背中にある温もりが優しくて、ドモンは拳を強く握り締めた。
どうしてレインは、自分が一番欲しい言葉をくれるのだろう。
「父さんが…」
「…えぇ」
続きを促すように頷かれた事に勇気を得たように、ドモンは口を開けた。
「父さんが嫌いなわけじゃないんだ…っ」
「分かってるわ…」
「でもっ!まるで…っ…父さんが兄さんを…
モルモットとしてしか見てない…気がして…っ!」
研究所を飛び出してからずっと、堪えていたはずの涙が溢れてきて。
「なんだか悔しくて…っ」
「そう…」
言葉を続けられなくなる。
何を言いたかったのか、何を言えばいいのかすら分からなくて、
ドモンは黙り込んでしまった。
「ねぇ、ドモン」
暫く続く沈黙の後に、先に口を開いたのはレインだった。
「おじ様も、とてつもない苦しみを背負っておられるわ…
きっと、もしかするとドモン以上の…」
それは分かるでしょうと聞かれて、ドモンは小さく頷いた。
「自分のせいで家族がバラバラになり、おば様やキョウジさんを…
そして何よりドモン、何も知らないあなたを苦しめてしまった…」
自分が冷凍刑にあっている間に、大切な息子が兄を憎み、
体を傷つけ戦いあっていたのだ。
「おじ様は自分をとても憎んでおられたわ。何も出来なかった自分を…」
「父さんが…?」
「えぇ、だからせめて、もう一度キョウジさんを生き返らせようとしたのよ」
研究所でライゾウは涙ながらに語っていた。
幼い息子を辛い道に歩ませた事を、何度も悔やんでいた。
「おじ様が言っていたわ。罪を償いたいんだって…」
「罪を…償う…?」
「あなたにだけじゃないわ、キョウジさんにも…」
あの頃からやり直す事は絶対に出来ない。
でもせめて、キョウジが生き返ったら。
「今までしてやれなかった事を沢山してあげたい…
もう一度、大切な息子達を抱き締めたい、
だからおじ様はキョウジさんを生き返らそうとしたんだ、って…」
「父さんが…」
息子が必死に父を想っていたように、父も息子を想っていたのだ。
「おじ様もあなたも、自分の苦しみを口にしようとしないから、
お互いすれ違ってしまうのかもしれないけれど」
親子だものね、なんて少し微笑むレインの指を優しく掴み返してやる。
「本当は…すごく嬉しかった」
「わかってるわ。あなたのたった一人のお兄さんなんだもの」
「もし…もし本当に生き返ってくれたら…」
「…えぇ」
「一番最初に、御礼を言いたいんだ」
「大丈夫…きっと言えるわ」
レインはドモンの背中を強く抱き締めたまま、空に輝く星を見上げると。
「あなたが祈れば…きっと」
ライゾウの言葉を思い出していた。
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