温泉へ行こう!

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   1:温泉へ行こうよ

   短い冬休みもあっという間に過ぎていこうとしていて。
   練習三昧な日々を送っていた阿部は、学校開始3日前にしてようやく取れる休みに、
   嬉しそうに三橋に近づいて行った。

   「三橋、明日暇か?」

   そこら中に転がったボールを必死に集めていた三橋は、
   その言葉に不思議そうな顔をしつつも頷いてくれる。

   「じゃあ明日から旅行に行かないか?」
   「え!?」

   そんな三橋に心の中で大きくガッツポーズをして、
   驚いたように固まる三橋に耳打ちするように顔を近づけた。

   「うちの母親が商店街の抽選で『伊豆の温泉で1泊2日の旅』
    っての当てたんだけど明日行けないらしくてさ。一緒に行かないか?」

   みんなには内緒だぞ、なんて笑う阿部が、
   本当は嫌がる母親に無理矢理頼んで手に入れたというのは秘密だ。
   いい歳をしてパパと行くのよ、と言い張る彼女に
   ヨン様のカレンダーを奮発して買ってやってやっと手に入れたのである。
   微笑みの貴公子、オバサマ達のアイドルの存在は免罪符になるらしい。
   それもこれも、三橋と二人で旅行がしたい為だったのだ。

   「ででで、でも、オレ…」
   「無理なのか?」

   戸惑う三橋に、途端に傷ついた仕種で俯く阿部は卑怯だ。
   そうすれば三橋が焦るのがわかっていてやる阿部は、
   恋の為には手段を選ばない男と言えるだろう。

   「ちち違っ!オ、オレ…なんか…で…いいのか…な…って…」
   「当たり前だ!」

   顔を赤くして俯く三橋に大きく頷いて両肩を掴んでやる。

   「オレは三橋とだけ行きたいんだ!」

   多少大袈裟なくらい行きたい事を主張してやるのは、
   自分なんかでいいのかと不安がっている三橋を安心させる為だ。
   ちょっとでも考えるような仕種をすれば、
   すぐに三橋は悪い方向にばかり考えてしまうから。
   阿部は阿部でいろいろ試行錯誤しているのだ。

   「い、行くよ!」

   そんな阿部の言葉に興奮したように言う三橋に気をよくして。

   「じゃあ帰るか」
   「う、うん!」

   早く終わるように自分も球拾いを手伝ってやった。

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   もうね〜また阿部君が暴走してますね(苦笑
   もう私にはこんな阿部君しかないみたいです(爆

モドル