温泉へ行こう!2

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   2:迷惑な同伴者

   次の日、空は眩し過ぎる程の晴天で。
   絶好の旅行日和だと言わんばかりなのに、阿部の心は真っ黒な雲が覆い、
   雨が振り竜巻が吹いて雷が鳴り響いているような沈んだ気分だった。

   「何故…お前らがここにいる…」

   その出鱈目な心の天気の原因は、阿部の眩しい太陽と一緒に笑いながら、
   新幹線の向かいの席に、暢気に座っているのだ。

   「だってオレのじいちゃんが商店街のくじ引きで旅行当てたんだもん!」

   田島がホラと見せてくれたチケットは、
   阿部が母からねだって無理矢理もらった券と全く同じもので。

   「今商店街で密かにブームになってるのか…?」

   こんなに簡単に当てられてしまっていいのかと
   額を押さえてうなだれてしまった。

   「た、田島が一緒に行こうって言ってくれたんだよな!」

   向かい合いの席に座った花井の言葉に
   無性に怒りが湧いてくるのは仕方ないと言えるだろう。
   普段はチームワークが要求されるチームメイトでも、
   今はただ邪魔なだけのゴミと一緒なのだ。

   「だって花井が今日どうしても遊んで欲しいって言ったからな」
   「い、嫌だったのかよ…」
   「冗談だよ!すっげー楽しみだな!」
   「お、おう!」

   しかも目の前で出来立てのカップルのようにいちゃいちゃされては、
   怒るなという方が無理に思えてくるのだ。

   「あ、阿部君!」
   「ん?どうした?」

   隣から聞こえた弱々しい声に、何もないような笑顔で聞き返してやる。

   「オ、オレ…友達と…旅行なんて…久しぶり」

   目に涙を浮かべて俯く三橋に、彼の過去を思い出して眉をしかめた。
   どんなに行きたくても行く事は叶わなかったのだろう。

   「目一杯楽しもうな」

   そっと頭を二回ポンポンと叩いて笑ってやったら。

   「う、うん!…オレ…オレ、迷惑かけない…ように…頑張る…から…」

   新婚初夜に『これから精一杯頑張るからよろしくね』と
   新妻から言われるような台詞を言われて。

   「今夜は優しくするぜ…」
   「え?」

   小さくガッツポーズをして呟くと、
   首を傾げて見つめてくる三橋になんでもないよと笑いかけた。

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   ホントお馬鹿さんばっかりでごめんなさい(苦笑

モドル