温泉へ行こう!3

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   3:旅館へようこそ!

   大自然に囲まれた天然の温泉がある旅館、といえば聞こえはいいが。

   「一体…いつになったら着くんだ?」

   これは大自然というよりも只の密林地帯なんじゃないかと
   思わず阿部が呟いてしまうのも仕方が無い。
   駅から徒歩1時間。延々と歩き続けている一行を待ち受けていたのは、
   明らかに開拓されていないであろう木々と雑草の生え並ぶ道だった。
   疲れるなという方が無理な場所である。
   母親達がここに来る事になっていたらいったいどうなったんだろうと
   思わず考え込んでしまった阿部は。

   「あべー!まだ歩くのかーーー!!?」

   3メートル程離れた所から荷物を引きずるようにして歩いている花井や。

   「あああ阿部君…し、死ぬ…」

   阿部に荷物を持ってもらっているのに悲壮な顔つきになっている三橋。

   「みんな元気ねぇなー!しっかりしろよ!!」

   一人元気にはしゃぎまくっているくせに
   旅館までの行き方を一切知らない田島に、頼りは自分だけなのかと思うと、
   余計に疲れが溜るのを感じた。
   それから歩き続ける事30分。

   『着いたー!!!』

   やっと見えた旅館に、全員で嬉しそうな声を出して最後の道を走り出した。
   黒い屋根に木で出来た大きな旅館は予想以上に綺麗で。
   思わず入り口で立ち止まって感心したように見つめてしまう。

   「いらっしゃいませ」

   旅館に入って女将達に迎え入れられ、気を良くした阿部は。

   「…何ですって?」

   次の瞬間女将から発せられた言葉に、
   目眩にも似た怒りを感じながらもう一度聞き返した。

   「ですから、お部屋は隣同士になります。
    お友達同士みたいで、丁度よかったですね」

   綺麗な笑顔で言われて思わず顔を引きつらせる。

   「出来れば…側じゃない部屋にして…」
   「隣同士だってよー!やったな、三橋!!」
   「う、うん!いっぱい…話せる…ね」

   思わず言い返そうとした言葉は、
   嬉しそうな三橋を見て思わず飲み込んでしまった。
   三橋にしてみればみんなと一緒に出来る今回の旅行が嬉しくて仕方ないのだ。
   それを自分の我が儘で引き離してしまう事は、とても出来ないような気がした。

   「…花井…」
   「ぐはっ!」
   「…邪魔をしたら…殺す」
   「な、何がだよ!!!」

   それでもやっぱり折角手に入れた二人きりの時間を邪魔されたくないから、
   楽しそうに旅館を見回していた花井の後ろ首を掴んでそれだけ言うと。

   「三橋、部屋に行こうぜ」
   「う、うん!」

   そっと三橋の手を取って部屋に駆けて行った。

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   どこまでいっても可哀想な花井君に清き一票を(笑

モドル