温泉へ行こう!4

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   4:天然の無礼者

   「き、綺麗…」

   部屋に入った途端に広がるパノラマに、二人して息を飲んで。
   大きな窓の向こうにある大自然にしばらく酔いしれたように見つめ続けた。

   「初夜には最適だな…」
   「え?何か…言った?」
   「今夜のご飯が楽しみだって言ったんだ」

   誤摩化すように適当な事を言ったけれど、頭の中は邪な事でいっぱいで。

   「オレ…も、楽し…み」

   幸せそうに笑う三橋の笑顔が可愛くて、今すぐにでも押し倒してしまいたくなる。
   ずっと押さえ込んでいた欲望は若さに忠実で、今にも爆発してしまいそうなのだ。
   それよりもまず、告白という大イベントがまっているんだという事は、
   頭の中から完全に消えているらしい。

   「何か行きたい所あれば言えよって言ってやりたい所だけど、
    ここじゃウロウロしても何もなさそうだな」
   「い、いい…んだ!来れた…だけで…幸せ、だから」

   側に合った座布団に腰を下ろして笑った阿部は、
   照れたようにこちらを見つめた三橋の笑顔がとても可愛くて。

   「そ、そっか…よかった」

   自分も思わず照れたように顔を赤くして俯いた。

   「…」
   「…」

   二人の間に流れる気まずい無言。
   何か言わなきゃと思うけれど、声がのどに張り付いてしまった様に出てこない。

   「こっち…来いよ」

   やっと出た声は自分でも恥ずかしく成る程弱々しい物だったけれど。

   「う、うん…」

   そっと横に差し出した座布団に三橋が大人しく座ってくれるから、
   阿部は安心したように小さく息を吐いた。

   「…」

   そしてまた続く沈黙。
   まるで初めてお泊まりをした初々しいカップルだな、なんて考えて。
   そんな自分の考えが可笑しくて小さく笑った。

   「あ、阿部…君?」

   覗き込むように三角座りしたまま見つめてくる声になんでもないと笑って。

   「オレ達、何だか出来立てのカップルみたいだなって思ったら」

   可笑しくて笑えたんだ、なんて、三橋を安心させる為の冗談のように言ったのに。

   「あ、阿部君…っ!」

   本気にしたように顔を赤くして俯いてしまった三橋に驚く。

   「三橋…?」

   まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったから。
   もしかして期待してもいいのだろうか、とか。
   三橋も自分と同じ気持ちだから照れたのだろうかとかイケナイ期待をしてしまう。

   「三橋…」

   駄目だと分かっていても、一度思った感情は抑えが利かなくて。
   呟くように名前を囁いて見つめたら、三橋も濡れた瞳で見つめ返してくれた。
   何も言わず二人で見つめ合う。

   「阿部…く…」

   赤く柔らかそうな唇で名前を呼ばれて、
   我慢出来なくなったようにそっと顔を近づけた瞬間。

   「阿部ー!三橋ー!何もする事ねぇしトランプしようぜ!!」

   元気な隣人の声に邪魔をされて。

   「阿部?なんで転がってんだ?」
   「…殺す」

   咄嗟に三橋に突き飛ばされた格好のまま、
   ムスッとした顔で迷惑な二人を見つめた。

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   痒くなっちゃうような焦れったい二人が好きです★

モドル