温泉へ行こう!5

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   5:温泉へ行こう!

   「オレは一体何をしに来たんだろう…」

   思わず遠い目をしてしまう阿部は、
   今まで自分がしていた事を思い出して溜息を吐いた。
   当然のように邪魔をする為に入って来た二人に付き合って
   トランプをやっていた阿部は、熱中するあまり夕ご飯の時間まで
   延々とトランプしまくっていたのだ。

   「確かオレは朝ここに着いたはずじゃ?」

   自分の記憶力に自信がなくなったように呟く阿部は、
   やっと手に入れた二人だけの時間がアッサリと
   半分終わってしまった事に呆然とする。

   「あ、阿部君…ご飯…食べ、よ」

   そんな阿部に戸惑ったように声をかけた三橋は、
   目の前に並べられたご飯を前に、モジモジとしていた。

   「あ、ああ、そうだったな」

   当然のようにご飯の時間だと出て行った二人のせいで予定は狂ってしまったが、
   まだ今日が終わったわけではないのだ。

   「じゃ〜いただきます!」
   「い、いただきます!!」

   嬉しそうにご飯に手をつける三橋を見つめて、これからの予定に頬を緩めた。
   それから一時間程まったりと過ごし、腹休めをしていた阿部は。

   「そろそろ風呂行くか」
   「うん!」

   よっぽど温泉が楽しみなのか、ワクワクとした様子で風呂の用意をする三橋を
   楽しそうに見つめて、自分も風呂の用意をした。
   本当は二人だけで部屋に付いている風呂に入りたかったのだが、
   そんな事を言い出す事も出来ず、三橋も喜ぶので温泉へ行く事にしたのだ。
   調べた所によれば天然温泉でもここには色々な種類の温泉があるらしい。
   野球で疲れた身体を癒すには丁度いいと思った。

   「早く来ないと放っていくぞ」
   「ま、ま、待って!」

   部屋を出てさっさと歩いていこうとする阿部を必死に追って来た三橋と
   横に並んで歩いていると、なんだか本当にお泊まりに来たカップルか
   夫婦のようだな、なんて思えて嬉しくなる。
   冗談を言ったり三橋をからかったりしながら、
   幸せそうに男湯の暖簾を潜った阿部は。

   「お!阿部と三橋も来たのか!」
   「なんかオレらの貸し切りみたいに誰もいないぜ!!」

   呑気に響き渡るお邪魔虫達の声に。

   「…お前らは何度邪魔をすれば気が済むんだ…」

   自分はどんなにツイてない男なんだろうと、
   思わず自分の人生を思い返してしまった。

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   阿部君が哀れなのは運命です(笑

モドル