温泉へ行こう!6

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   6:過激に目眩

   阿部は自分の今日の予定について考えていた。
   三橋を温泉に誘って、二人で駅弁でもつつきながら旅館に来て、
   静かな旅館でより親睦を深めて、蕩けるような甘い告白。
   二人で温泉に入ってほんのり身体が温まったら…秘密の一夜。
   朝自分の腕枕で目を覚ます三橋をちょっと照れくさい気分で見つめて。
   二人で「おはよう」っていいながら真っ赤な顔の三橋に
   モーニングキッスをする予定だった。
   そう、そうなるハズだったのだ。
   この際告白してオッケーをもらえるかどうかは問題ではない。
   予定道理に進むかが問題なのだ。

   「素晴らしいプランだったのに…」

   だが実際の所は、電車で余計なお邪魔虫二人が登場し、
   静かな旅館で邪魔をされ、甘い告白も出来ぬまま4人で温泉に入っているのだ。

   「ヤツらさえいなければ…」

   恨み言の一つも出てくると言いたげに眉をしかめる。

   「阿部ー。なに一人でブツブツ言ってんだ?」

   キモイなーなんて言ってくる花井に、阿部は今なら殺れる!と
   不気味な決意をしてしまっても仕方が無いと言えるだろう。

   「…邪魔はするなと言っておいたはずだったけどなぁ」
   「や、やめっ!ゴボガボッ!!!」

   つるりとした頭を抑えて湯船の中にこれでもかという位沈めてやるのは
   殺意が呼び起こした行動だ。
   警察に捕まっても「衝動だったんです」と泣き落とせば少年院で済むな、
   なんて考える阿部は本気だ。

   「何遊んでんだよ!ホント、お子様だよなー!な、三橋」
   「あ、あはは…」

   三橋の髪の毛を洗っていた田島の言葉に妙に脱力して手を離した。
   子供に子供と言われてしまった瞬間のあの悔しいような、
   呆気にとられるような感情は、
   言われた事がある人にしかわからないものがあるのだ。

   「はあ、はあ、な、何しやがるんだよおおお!!!」

   涙を流して叫ぶ花井に少し気分を浮上させて、
   腰にタオルを巻いた状態で田島に髪を洗ってもらっている三橋を見つめた。
   まだ幼さの残る身体は、野球をやっているだけあって
   しなやかな筋肉が付いていて。
   身体が少し動く度に見え隠れする乳首が、こちらの煽情を煽るようだった。
   滑るように泡が身体を流れる様が綺麗で、
   思わず温泉の淵に手を乗せて見入るように三橋を見つめていた阿部は。

   「何じーっと見てんだ?このヘ・ン・タ・イ」

   後ろから花井の楽しそうな声に邪魔をされて、座った目で振り向いた。

   「な、何だよ!」
   「自分より20センチ近くも小さい奴に襲われて
    喜んでる奴には言われたくないな」
   「お!おおお襲われたりしてねぇよ!キキキキスしかされてな…っ!!!」

   悪魔の囁きの様な阿部の声に、思わず正直に答えてしまう花井は、
   だから阿部にからかわれるのだと分からないお馬鹿さんらしい。

   「…お前…すげぇ趣味してんだな…」

   本当に襲われてたのかと驚いた顔をする阿部は悪魔だ。

   「う…うう…」

   真っ赤な顔をして涙を浮かべる花井に同情の余地はない。
   散々邪魔をしたのだからこれくらいしてもいいのだ。

   「あー!阿部!お前あんまり花井をからかうなよ!」
   「た、田島!」

   そんな二人に目をやって膨れた顔をした田島は、
   三橋を洗い終わったのか温泉に飛び込むと、ますます赤くなる花井を抱きしめた。

   「わかった。もうしねぇよ。でもそのかわり…わかってるよな」

   そんな田島を強い瞳で見つめて、協定を結ぶように綺麗な笑顔を浮かべる。

   「邪魔はするな…だろ?わかってるって。オレだって邪魔されたくないもんね」

   阿部に笑い返した田島の顔は、普段の子供のような表情からは
   想像がつかないくらい男のそれになっていて。

   「…すごい趣味だな」
   「お互い様だろ」

   田島が指差した方にいる人物に目をやった。

   「あ、あ、阿部君!お、お湯があつ、熱いよ!!!」

   泣きそうな顔でお湯に入ったり出たりを繰り返している三橋を見つめて笑った阿部は。

   「オレは趣味いいんだよ」

   助けてやろうと三橋に近づいた瞬間。

   「う、うわぁっ!!!」

   目の前で三橋の腰に巻いていたタオルが外れて。

   「あ、阿部君!!!」

   素晴らしい絶景に鼻血を出したまま温泉に沈んでいってしまった。

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   誰ですか、変態だと突っ込んだのは(笑
   最近花井君イジメが堪らなく楽しいです(死

モドル