HAPPY BIRTHDAY

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   「誕生日おめでと〜!!!」

   部室中に響き渡る大きな声に目を見開いた阿部は。
   すっかり忘れてしまっていた自分の誕生日の存在に、
   なんだか嬉しいような、照れくさいような表情を浮かべる。

   「さんきゅ」

   12月11日ー
   今日は自分が生まれて16回目の誕生日。

   自分でも忘れていたような存在を知っていた上に、
   尚かつ祝ってくれる存在に心が温かくなった。

   「部活終わるまではみんなで知らん顔してようって言ってたんだぜ」

   ビックリしただろーと子供のように笑う田島の言葉に。

   「ばーか。お前等の考えてる事なんてわかるんだよ」

   その通りだから悔しくて憎まれ口を叩いてしまうのは。
   素直になれない自分がどこまでも恥ずかしいのと。
   笑顔で祝ってくれる仲間達の存在がひどく嬉しかったからかもしれない。

   「実は昨日急に聞いてさ、プレゼント用意出来なかったんだよ」

   悪いな、なんて困った顔をする花井の情報源はおそらくマネージャーだろう。
   チームの誰も知らなかった阿部の名前を知っている彼女は、
   西浦全ての情報を握っていると言っても過言ではない。

   「いいよ、そんなの。今度飯でも奢ってくれれば」

   楽しみにしてるぜ、なんてとても子供っぽい笑顔で笑ってやるのは。
   申し訳ないと思うみんなをさりげなく労る為だ。
   阿部がどこまでも冷たい態度や憎まれ口を叩いても嫌われないのは。
   こうしたさりげない優しさを見せる事が出来るからで。

   「しゃーねぇなぁ、じゃあマックのハンバーガー一人一個ずつな」
   「それはいらねぇなぁ」

   みんな気づかない振りをしながらも、
   ちゃんとその優しさを感じているからかだ。
   わざと指摘したりしないのは、
   恥ずかしがりやで天の邪鬼な性格をわかっているからだろう。

   「あ、あの!」

   和やかな声に埋もれるような小さな声に目をやった阿部は。
   恥ずかしそうに顔を赤くしながら出て来た三橋に、小さく目を細めた。

   「なんだよ」
   「あ、あのね!あの、ね!!」

   わざと何ともないように答えるのはとても恥ずかしいからで。
   言われる台詞が分かっていても、ここまで言葉にするのを躊躇われては
   逆にこちらが恥ずかしくなってしまう。
   それがずっと大好きで愛おしい恋人からの言葉だと思えば尚更だ。

   「お、お、おめ、、、」
   「だからなんだよ!」

   本当は嬉しくて仕方が無いのに、怒ったように言ってしまう。
   途端にビクついたように涙を浮かべる三橋に、
   今すぐ抱きしめてキスしてやりたい衝動に駆られるけれどそうしないのは。
   チームメイト達に自分達の関係を バラしてしまう程馬鹿でもなければ、
   そんな恥ずかしい姿を人に見せるなんて絶対に出来ないからだ。
   一生懸命言葉を探すようにキョロキョロして、
   見つめてくる真っ赤な濡れた瞳に、阿部の理性が限界を訴え始めた時。

   「あ、あの、、、ね!!!」
   「は〜い!何してんの?もう帰らないと警備員さんに怒られるわよ〜!」

   部室を蹴り破る勢いで入って来た百枝の声に、
   皆は大急ぎで着替えて部室を飛び出さなくてはいけなくなってしまった。

   「じゃあな〜!また明日!!」

   大きな声で別れを告げる皆に小さく手を振る。
   急いでこちらに走って来た愛おしい存在に、小さく微笑んで立ち止まった。

   「あ、阿部、君!あ、あの、あのね!」

   たった『おめでとう』の5文字に何故そんなに恥ずかしがる事があるのかと
   思わず溜息が出そうになってしまう。
   けれど、人一倍恥ずかしがりやで臆病な恋人にとったら、
   その5文字がとても長い古文書を読むより難しい言葉になってしまうのだろう。
   そんなところが可愛くて、
   いつも阿部は自分を抑える事に必死になってしまうなんて。

   「お、、、おめ、、、おめ、、、、」
   「焦れったい!」
   「うぐっ!!」
   「言いたい事があるならさっさと言いやがれ!!」

   きっと三橋はちっとも知らなくて。
   それが何だか悔しいから、虐めるように頭を拳でグリグリ押さえてやる。
   天の邪鬼の愛情表現はとても分かりにくいのだ。

   「お、おめで、とう!!!」
   「お?素直に言えたじゃねぇか」

   目にいっぱい涙を浮かべながら見つめてくる三橋は、
   このまま連れ去ってしまおうかなんて悪い考えを起こさせる程可愛い。

   「阿部〜、あんま三橋虐めんなよな」

   呆れたように隣で溜息を吐く花井がいなければの話だけれど。

   「さんきゅ、な。気をつけて帰れよ」

   最後に三橋の頭を撫でた手はとても甘い物になってしまって。
   ここが真っ暗な道で良かったと思う。
   もし明るかったら、きっと自分が甘く愛おしさが詰まった顔をしている事が
   バレてしまうだろうから。

   「阿部、君、、、」

   まだ何か言いたげな三橋から名残惜しそうに手を離して、
   三橋とは逆の帰り道を歩き出した。

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   →三橋Side
   →阿部Side

   やっと出来た阿部君お祝い小説(汗
   とりあえず選択式にしてみました☆

モドル